1. 導入:なぜCybOXが重要なのか
サイバー攻撃が発生した際、現場では「どのファイルが作成されたか」「どのレジストリが書き換わったか」「どのIPアドレスと通信したか」といった膨大な痕跡(Observable)を調査・記録する必要があります。しかし、これらが属人的なメモやバラバラのログ形式で残されると、組織間での情報共有や自動化が困難になります。
CybOX (Cyber Observable eXpression) は、これらの攻撃痕跡を機械判読可能な形式で記述するための標準化仕様です。これを導入することで、インシデント対応の自動化や、セキュリティ製品間での脅威情報のシームレスな連携が可能になり、対応工数の劇的な削減が期待できます。
2. 基礎知識:CybOXの構成要素
CybOXは、攻撃活動の「主体」と「動作」を以下の2つの要素で記述します。
・オブジェクト (Object)
攻撃の対象や痕跡の主体です。具体的にはファイル、レジストリキー、プロセス、IPアドレスなどが該当します。約80種類以上のオブジェクトが規定されており、ハッシュ値やファイルサイズなどの属性を詳細に記述できます。
・イベント (Event)
オブジェクトに対して発生した「動作」です。例えば「ファイルを削除した」「レジストリキーを作成した」「HTTP GETリクエストを送信した」といったアクションを指します。約110種類の形態と、180種類以上の具体的な動作が定義されています。
3. 実装と解決策:機械処理への橋渡し
CybOXの真価は、OVAL (Open Vulnerability and Assessment Language) 等の他のSCAP(セキュリティ自動化プロトコル)と連携できる点にあります。
例えば、インシデント対応チームが観測した「不審なファイル」をCybOXで記述すれば、それをツール経由でOVAL形式に変換できます。このOVALデータを脆弱性スキャナやIDS/IPSに読み込ませることで、組織内の全端末に対して「同様のファイルが存在しないか」を自動的にスキャンすることが可能になります。
4. サンプルプログラム:CybOX形式の概念イメージ
CybOXはXMLベースの記述形式です。以下は、ある不審なファイル(ipa.exe)を定義する際の構造を簡略化したサンプルです。
5. 応用・注意点:現場での運用
実務で活用する際は、以下の点に注意してください。
・自動化ツールとの連携
CybOXを手動で記述するのは非現実的です。MITRE等が公開している変換ツールを活用し、既存のログ収集基盤(SIEM等)から自動的にCybOX形式を出力するパイプラインを構築することが重要です。
・情報共有のフォーマット
CybOX単体ではなく、脅威情報全体を構造化するSTIX (Structured Threat Information eXpression) の一部として利用されるケースがほとんどです。「どのような攻撃を受けたか(CybOX)」を「どんなキャンペーンの一環か(STIX)」と結びつけることで、より高度な分析が可能になります。
・バージョンの確認
CybOXは開発・改訂が進んでいる仕様です。最新のMITREの仕様書を確認し、利用するセキュリティツールが対応しているバージョンと整合性が取れているか必ずテストしてください。

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